三十六部「君は大丈夫」

没頭するものがあってよかった
sanaka/佐藤好縈 2024.04.25
誰でも

展示中、ひとりの方がやってきた。ギャラリーの前を通りがかって看板に書かれた「さいしょのさいご」という言葉にどうやら引っかかったらしい。意味を尋ねられてわたしが答えると、少し受けた印象と違ったようで本人の解釈を伝えてくれた。愉快だった。

それから何故やら対話が深まり、個人的に抱えた問題について話すようになっていった。二十二歳で生きてる感触がなく長生きするイメージがもてないと云い、恋愛体質で付き合っては別れてを繰り返していると語る。

その子のはなしを聞きながら、恋愛以外に没頭できるものはないのだろうかとずっと考えていた。さいごのさいごまで良い答えにたどり着けなかったけれど、その子はひとを観察する力、言語化に長けていたからそれらの才能を自覚して自信となればおのずと光るんだろうと感じた。

その子が帰ってから「このおじさん、なんか知らないけど愉しそうに生きてるし、歳取るときっと良くなるんだろうなー」って思ってもらえたらいいんだなーって分かった。こんなんでも生きてられるんだから、本当に君は大丈夫よ。

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