エッセイ[other clothes(あれ以外の衣服)]vol.2

2)Someone’s clothes(誰かの衣服)
sanaka/佐藤好縈 2025.07.14
誰でも

9年前、仕事を辞めたばかりのわたしに「もし田舎暮らし興味があったら仕事手伝ってもらえない?」と声が掛かりました。とある建設会社が実施する移住プロジェクトの運営チームに入って、体験移住をする若者たちが居住する家の大家さん的な機能と移住先の地元企業の仕事体験を斡旋することが主な仕事でした。

このプロジェクトを立案して、わたしに声を掛けてくれた壬生勇輔さんは金髪でニューエラのキャップをかぶり、いつも大きな丸いサングラスをしていました。そもそも写真家であって、きめ細やかな視点をもつ壬生さんは社内でも異色な空気を漂わせていました。もちろん本人は至って通常運転です。田舎のおじいちゃんおばあちゃん、役所の人たちが集まる会でもその姿で現れ、事業内容を淡々と説明して、見た目など関係なく、みんなが納得していく様は格好良く思えました。

当時、彼はサニートラックという車に乗っていたのだけど、プロジェクトを終える頃には手放す段取りをしていて、三度目の離婚に向けて動いていました。それは決して感情と結び付いているようではありません。ただ結婚と離婚を繰り返しているのは、彼にとって付き合う段階は不要のようで、契約という形式が最も分かり易いからのように感じました。彼の仕事終わり、わたしの家の近くに在ったファミリーマートで待ち合わせて、車内で三度目の離婚届の保証人として名前を書きました。彼から結婚や家族に対する新しい認識を教えてもらって笑いながら署名したのを覚えています。もちろん彼の行動は通常運転です。

ーーー

先日、彼からちょうど連絡があったので、疑問に思っていたことを尋ねました。

佐)そういえば、なんで大きなサングラスをしてるんですか?

壬)18歳のとき、友人から「人の目を見続けて喋りすぎ!そんなことしたらアカン!相手が困る!」と言われてから、そんなことしてるのを知らなかったものですから、目を見続けないで話せるようになるまでサングラスかけよってなったのがきっかけやったんやけど、そもそも羞明でしたらそのままつけることが多くなった感じ。でっかい理由は考えたことないけど、好みは好みとしてやけど、他に考えられるのは「目」が怖いから、こっちを「でっかい目」にして相手に勝とうとしてるんかな?笑

佐)勝とうとしてるんですか?笑 壬生さんの中で勝ち負けって中心にあります?

壬)勝ち負けはこだわってるね!勝ちたい!誰かにとかではなく、世の中の思い込みに勝ちたい!

佐)確かに出会ったときからそれは感じてたかもです

壬)誰かの可能性でありたいと思ってる。そんな感じ。

とそんな会話をしました。

ーーー

何か些細なきっかけで、ずっと身に付けているもの。わたしは、職場の上司に「目つきが悪いので眼鏡をかけろ」と言われてから、伊達眼鏡をかけるようになってから習慣的に眼鏡をかけるようになりましたが、ネガティブな理由ではなく今は衣服全体のバランスを図るために身体的に不要なものを身に付けています。不要なものと必要なものとがぶつかり合って相殺される感覚があってわたしは好きです。壬生さんの大きなサングラスに勝てっこありませんが、わたしも世の中の思い込みには勝ってみたいです。

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