五十二部「二億円」
昨年五月に催した福岡の展示に足を運んで下さったギャラリーコバコのオーナー秋重さんから合同展「表現する衣服展」に声をかけてもらい、設営の為、明日早朝から福岡県朝倉市に向かう。豪雨、避難警報の中、大丈夫だろうか。出発できるだろうか。
出展する作品は、一点。sanakaの衣服の原形七つがすべて繋がっている形を用意して、実際に七人が同時に着用可能になった。(言語表現に限界あるので、いつかみて触れてさわってほしい。)この子を再度制作するにあたって(毎度のことだけど)色々と考えたので纏めたい。
まず布は、キモノの下に着用する長襦袢の「絽」の透けた白い布を選んだ。素材はポリエステル100%。土に還るより「形」が残り続けることに価値があるとすれば、天然に拘らなくてもいいと考えた。又、石油に依存した生活を選び続ける以上は、プラスチックや化学繊維の製品は生まれてきて当然だと思うと、友好的にうまく付き合わないと。
作品名はMebius Cloudと題して「メビウスの帯」をテーマにした。メビウスの帯は、二つの面が交差する。それをアニミズムの考え方に観測すると生者の世界と死者の世界が一つにつながっている古代人の精神性を表していると聞く。たとえば、アイヌ民族がクマ送りの儀式で歌や踊りでクマの魂をカミの世界に送り、みあげとして毛皮や肉と交換する行為がある。カミの世界は人間の世界は同じ世界に在って、動物の仮面を纏って再び人間の世界に登場すると考える。
又、日本民話では「地蔵菩薩」と「閻魔大王」は同一視する考え方があり、死後の世界で人々を裁く閻魔大王に嘘をついたとしても、行動をつぶさに観察していた地蔵菩薩の一面で見破ってしまう話があり、更にわたしたちは未熟児で誕生できるのは社会が存在するからで、社会に対して本音と建前を行き来しながら生きている。そして、死ぬ。その連続を衣服で表現した。
販売価格二億円と唱っている。冗談で受け取ってもらっていいのだけれど、内心もしかすると安いかもしれないと思ってる。社会的な価値と合うかはさておき、わたしたちはこの衣服の原形で生活をしているのだから、人間二人と猫一匹が一生を暮らしている価値として表示した。sanakaの販売価格も、原型のデザイン料0.005%(1万円相当)が含まれていると捉えてもらいたい。いつかはオープンソースしたいと変わらずに思っているけれど、課題が多い。
そして、その子を飾る什器をつくった。三日もかかってしまった。素材を木で失敗して、竹で失敗して、アルミでようやく成功した。曲げるってめちゃくちゃ難しい。でも、仮設で飾ってみたときに納得感があった。むしろ、アルミ加工が次なる境地かもしれない。最近、monaka(猫)が朝五時に顔を叩いて、朝ご飯を願い出るので、同時に起きようと思う。起こしてくれて、ありがたい。設営、たのしみ。
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