七十部「サイン」
今日から入院生活が始まる。同じ時間に予定が組まれた入院する人たちが宿泊セットを持ってぞろぞろと並び、番号札を渡されて、やけに柔らかい椅子に座って呼ばれるのを待つ。此処にいる人たちの平均年齢をぐっと下げた異様な佇まいのわたしであるが、忙しく場を整理する人の顔は険しい。前に座るお爺ちゃんのリュックのサイドポケットには辞典サイズのナンプレが詰め込まれている。大きなテレビに甲子園が流れ、目を凝らす者たちが青年達の活躍に目が離せない。隣に座る同じ病棟に案内された男性は、抗癌剤治療で何度も入院を繰り返していると教えてくれて、わたしよりも退院日は早かった。
わたしの病状は心配する程でなく全身麻酔をしなければならず術後経過を看るために一週間の入院生活を余儀なくされた。身体のサインは二年ほど前からあり、後回しにしてきた結果なので反省中。自業自得という言葉は本人以外使ってはならない言葉だと思うので、遠慮なく言わせてもらいます、ただの自業自得です。同じ説明を繰り返し受け、同じ質問(出生日と名前)に答え続け、PCR検査を受けて陰性、ようやく辿り着いた安心安全を保ち、管理された窓際の病室を寝床にかまえた。到着してまもなく、簡素な食事が机に届けられた。無機質の淡いピンク色の食洗機に何度もかけられた食器たち、印刷したばかりの白いネームプレートに名前があり、焼き魚、白ごはん、千切りキャベツのサラダ、スイカ、まるでコントの世界みたい。明日手術だから、0時以降は何も食べられないので、いつもよりよく噛んで食べる。
その後、手術前検診を終え、麻酔の説明をする為に研修医の方が許可を取りにやってきた。ざっくりといえば気管に管を通す練習台になっていいか?という内容。ベテランにやって欲しい人ばかりだと新人が上達しないままの方がわたしはこわい。ただ全身麻酔で身体の呼吸はその管が命綱になると思うと一瞬迷ったがサインをした。
この一週間は、sanakaのこれまでを整理する時間とする。そして、次の状態を眺めていく。明日から三日間シャワーに入れないので、風呂に行ってきます。
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